新橋スリープ・メンタルクリニック

ナルコレプシー Narcolepsy

【疫学】

多くは思春期前後に発症します.30-40歳代で発症することもありますが、50代での発症は稀です。日本人の600人に1人の割合でナルコレプシーが発症すると報告されています。

【病因】

神経ペプチドの一種であるオレキシン(食欲や睡眠覚醒の調整をしています)が関与していると報告されています。

【症状の特徴】

ナルコレプシーの症状は、REM睡眠(簡単には夢を見ている時の睡眠です)の起こりやすさ、REM睡眠への移行しやすさを基盤にしていると考えられます。
入眠後すぐにREM睡眠に移行するという特徴はナルコレプシーの診断基準にもなっています。
日中の耐え難い眠気や、自分でも気付かないうちに(一瞬の)眠りに落ちているといった症状は、覚醒状態にREM睡眠が挿入してくる状態であり、寝入りばなに悪夢のような状態に襲われる状態や金縛りにあう症状は、REM睡眠への移行のし易さを表していると考えられます。

・情動脱力発作:この症状はナルコレプシーに特徴的です。
驚いた時、笑った時、嬉しくて興奮した時など(サッカーで応援しているチームが点を入れた時、面白いことを言って笑った時、急に名前を呼ばれた時など)、に両膝の力が抜ける、呂律が回りにくくなる、といった症状です。
発作の時間は、数秒間から数分間と短く、発作の後は速やかに自然と回復します。てんかんの場合は、発作時に意識が消失しますが、ナルコレプシーの場合は意識がはっきりとしています。 発作の回数は、個人差があります。 笑う、驚くといった情動が、REM睡眠を誘発し発作を起こさせると報告されています。
(下に示した情動脱力発作以外の症状は、ナルコレプシー以外にも、寝不足や居眠り時にみられることがあります)

・睡眠発作:眠気に襲われてすぐに眠りに落ちる、記憶や意識が途切れると感じることもある、眠気は時間帯を問わないことが多い。

・入眠時幻覚:寝入りばなに、(自分以外誰もいない部屋で)誰かが入って来るような気配がする、時には声や大きな音が聞こえるような気がすることもあります。

・睡眠麻痺:寝入りばなに生じる金縛りです。

入眠時幻覚や睡眠麻痺はREM睡眠に関係している症状であると考えられます。

・自動症:眠ったという自覚がないのに、自分の行動を覚えていない。 例えば、身に覚えのない、文字をパソコンで入力している、など。

・夜の睡眠:ナルコレプシーの夜の睡眠は、浅く、夢が多く、途中で目が覚める(中途覚醒)が多いといった特徴があります。ナルコレプシーは日中眠いのが特徴であるはずなのに不思議な感じがしますが、ナルコレプシーは夜間睡眠中のREM睡眠が多くその結果、眠りが浅くなると考えられています。

・情動脱力発作のないナルコレプシー:情動脱力発作がナルコレプシーの特徴的症状であると説明しましたが、最近では情動脱力発作のないナルコレプシーが存在することが報告されています。情動脱力発作を伴うナルコレプシーとの臨床上もしくは遺伝子学的な違いについては、現在世界で研究が進められているところです。

【遺伝子】

日本人で情動脱力発作のあるナルコレプシーではHLA-DR15という遺伝子を持つことが知られています。ただし、この遺伝子自体は日本人の1/8が持っているとされ、つまり、この遺伝子を持っていてもナルコレプシーではない人の方が多いということになります。

【検査】

睡眠障害国際分類におけるナルコレプシーの確定診断には、入眠潜時反復測定検査(MSLT)が必要となっています。 MSLTとは、日中の眠気を客観的に測定する検査で、寝付くまでの時間やREM睡眠の出現を観察する、睡眠脳波検査です。脳波検査のできる施設で行ない、8-9時間程度要します。  また、情動脱力発作が明確であればナルコレプシーと診断して良いとされていますが、情動脱力発作を直接観察することや、患者さんの訴えだけで診断を確定するのは困難なことが多いため、MSLTを施行する場合も多くあります。当院では、MSLTが必要であると判断した場合、原則的に慈恵医大で検査を行なうこととさせていただいております。

【治療】

薬物療法:現在、ナルコレプシーの治療は薬物による対処療法が中心になっています。 ナルコレプシーの原因について全てが明確になっていないため、治療法(根治療法)の確立にはまだ時間を要すると思われます. 従って、眠気を覚ますための薬剤を服用し眠気に耐えるというのが現状となっています。 薬剤としては、モダフィニルが現在ナルコレプシー治療の第一選択薬となっています。 情動脱力発作に対しては、SSRIや三環系抗うつ薬に分類される薬剤が、効果的であるとされています。それらの薬剤がREM睡眠を抑制すると考えられているからです。 睡眠衛生:現在のところ薬物による対処療法が中心となっていると書きましたが、自分でもできることがあるかもしれません。それは、良い睡眠を摂ることで日中の眠気を少なくすることです。 ナルコレプシーの方の中には、生活のスケジュール上仕方なく、睡眠時間が不足している方がいます。 ナルコレプシーの眠気に加えて、睡眠不足が存在していれば、眠気はさらにひどいものになり、その結果、薬物も効きにくくなり使用する量も増えてしまう可能性があります。 まずは、十分な睡眠時間を確保し、規則正しい生活をしましょう。また、日中に15分程度の短い仮眠も効果的です。眠気が強くなる昼過ぎや夕方に短時間の仮眠を摂りましょう。 先程、ナルコレプシーは夜間の睡眠が浅くなると述べましたが、中途覚醒が多く睡眠の質が悪くそのことが更に日中の眠気に影響している場合には、睡眠薬を併用することもあります。